改善トピックス

第8回 「改善のスイッチ」


異物不良の要因は工程全般に渡り、その内容も多岐にわたるため、この全体像を把握しながら改善を進めることが重要になります。

これまでにも何度か触れてきた塗装工程について言えば、工程の中を漂う「浮遊塵」、素材などに付着した「付着塵」、工程内の「気流や圧力」、塗料などの製品に直接影響を及ぼす流体に含まれる異物などがあり、これらの各要因はバランスよく改善を進める必要があります。

 

どれかの要因を「一点豪華」的に改善しても、多くの場合望むような効果は得られず、どれか手の付いていない要因が一つでも残っていると、品質レベルはその一番弱い工程のレベルに見合ったものになります。

このため実際の改善の現場では、1ラウンド目でそれぞれの要因を例えば10%改善し、続く2ラウンド目で更に10%改善し、第3ラウンドで更に・・・、といった改善の積み上げを複数回行う、スパイラル状の経路をとることになります。

 

ここで問題になるのが、異物不良のように目に見えない要因を相手にする場合、改善の度合いも当然目には見えませんので、得てして「改善したハズ」「改善したツモリ」で活動が進んでしまう事で、こうなると効果は現れませんし、スパイラルの経路を外れ、改善活動は迷子になってしまいます。

 

各要因の状態を「可視化」し、更に可能ならば「定量化」するという「見える化」の手法は改善のコンパスとなって活動の方向を示し、これによってはじめて改善の道のりの中で迷子になる心配無しに活動を進める事ができるようになります。

コンパス無しでは「改善のスパイラル」ではなく、同じ問題が何度も発生する「堂々巡り」なっている事や、最悪の場合改善を進めているつもりが「負のスパイラル」に陥っているという事になっているかもしれません。

 

これまで特に発展途上国と言われていたような国々の改善支援の際に経験する事が多かったのが、品質の改善が劇的に進む魔法のような「改善のスイッチ」の押し方を教えて欲しいというような要望を受けることです。

確かにあまり改善の進んでいない現場では、一つの改善で不良率が10%以上低下する場合もあり、これがあたかも魔法のスイッチのように見える事もあるかもしれませんが、ある程度改善の進んだ現場では一つの改善で1%程度の品質改善ができる場合はむしろ稀ですし、そもそも様々なノイズのある生産現場で単独の改善効果を不良率などの最終品質から判断する事は至難の技です。

 

現場の小さな声を聞き分けて多くの要因に的確な対策を選択し続ける事、言い換えれば現場に無数に存在する小さな「改善のスイッチ」の中から適切なものを選んで押し続ける事が異物不良の改善ですし、そのための道標として「見える化」の技術体系は存在するとも言えます。